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「Sappukei」 Number Girl [Artists: MNO]

sappukei.jpg

 殺風景。アルバム・タイトルと音楽のイメージがこれほどマッチした作品もなかなか無い。Steve Albiniの様にささくれだったギター・サウンド、何かに追い立てられるかの如く性急にドライブするリズム隊、断片化したまま無造作に吐き捨てられる言葉の数々。そしてそれらが喚起する荒涼としたイメージ。

 ロラン·バルトは日本を指して「記号(表徴)の帝国」と表した。バルトが意味した事とは異なるのだが、日本の街の風景を見渡す度に「確かにここは記号の帝国だ」と感じさせられる。街頭のポスター、TVコマーシャル、電車の中吊りなどの広告媒体。街を行く人々の装い。テレビドラマの登場人物像。種々多様な雑誌。ガジェット。そして和製ポップ音楽。それらに貼り付けられたおびただしい数の記号は、その地で生活する者に「理解」(と服従)を強要する。

 異常な頻度で刷新される携帯電話の機種が意味するものは何か。若向け女性誌はどうして「カワイイ」を目指すのか。エクゼクティブ雑誌に子供の進学特集が組まれるのは何故か。歯は白く瞳は輝いていなければならないのか。女性モデルはどうしてみんな痩せているのか。ポップ音楽のテーマは恋愛しか無いのか。洗剤のCMに男が出ないのはどうしてか。「個性的」な服を着こなす人々の、その衣装はいったい彼/彼女らを何者として同定しようとしているのか。

 まさに「記号の帝国」だ。その情報の多さは時に目眩を起こさせ、脳の回路を焼き切らんばかりである。これだけ複雑で多量な情報を消化し、内面化して生きている日本人の能力というのは実に凄いと思う。単純で解りやすい記号体系が幅をきかせている類の他国文化が、時にバカバカしく、あるいは素朴に感じられてしまうのもやむを得ないだろう。しかし同時に、大量の記号を内面化する事は行動規範を増やす事でもある。次々に生み出されていく記号は人々の振るまい(と消費行動)を規定する。

 全体主義的なシステムも行動規範を与えるが、ちょっとパラノイドな言い方をすれば、記号を量産する現代の(自由な)生産/消費システムもまた、人々を洗脳し支配する装置に違いない。そして日本とは、そのシステムが最も発達した国のひとつだろう。極論を承知で書けば、市民と政治との距離がこれほど離れてしまっているにも関わらずこの国がなんとか回っていられるのは、この自動装置の強固さに因るのではないかとさえ思える。

 溢れかえった記号の押し付けがましさは、海から上がった際にまとわりつく砂の様に、イライラを募らせて疲弊を促す。そして巨大な嫌悪感が込み上げる。ナンバーガールが鳴らすトゲトゲしく殺伐とした音像は、暴力へと発展する寸前の、最高潮に達したこの「嫌悪」を表現している様だ。そして、街中を覆う記号の虚飾、その全てを否定した後の景色とは、きっと恐ろしく「殺風景」なものであるに違いない。

 こういった「嫌悪」というのは日本に限らずどこの国にも存在するだろう。でもそのイメージは「場」毎に固有であり、ナンバーガールのサウンドは、日本というトポスに跋扈する記号と意味とその権力に対する嫌悪の表明だ。「記号の帝国」の住人にこそリアルに響く音。日本住民による日本住民のためのalternative。古典的な「怒れる若者」ではなく「イラつく若者」というポスト・モダンなアイコン。リーダー向井氏の服装が全くファッショナブルでない点にも信頼が置ける。


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Champs 6

毎日巨大な嫌悪感に取り付かれながら仕方なく生きています。
そしてこの国は何もかもが透明です。
標的はしっかり分かっているはずなのに色が無いから見えないです。

このバンド2曲くらいしか知らなかったので、他のも聴いてみようと思います。
by Champs 6 (2008-02-29 12:02) 

Hemlock

>たねさん

いらしゃいませ。niceありがとうございます。


>6さん

今日もMoz兄キの罵詈雑言を聴いて乗り切りましょう(笑)
by Hemlock (2008-03-03 04:46) 

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